ガイア Gaja

イタリアワインの隆盛に最も貢献した人物といえば、最初に挙がる名前がアンジェロ･ガイアさん。
父の代からイタリア国内で名の知れた造り手でした。

アンジェロさんは醸造学校卒業後にカンティーナに入り、
畑の仕事をこなしながら大学に通い、経済学の修士号も取得しました。

元来、バローロやバルバレスコを造るネッビオーロ種は酸とタンニンが強く荒いワインしか造れませんでした。
これが原因で、ブルゴーニュのワインと比べると垢抜けないものとしてのイメージが強く、
イタリアワイン全体のイメージも、いま一つぱっとしないものになっていました。
そのイメージを打開したのがアンジェロさん。
バルバレスコを素晴らしく香り立つ、エレガントなワインに造り変えます。

バリックをイタリアで初めて使い始めた造り手としても知られています。
バルバレスコは熟成に時間の掛かるワインで、その期間は4〜5年。
ここに、バリックを使用することで2〜3年に縮めることに成功します。
これを機にイタリア中でバリック熟成が行われるようになりました。

彼の起こした変革はこれだけではなく、畑から醸造まで
ワイン造りのあらゆる面を見直していきました。
そのこだわりは、フランスの有名シャトーを上回り、
バリックはフレンチ･オークから自社で作成。
コルクはサルデーニャ産に絞り、指定サイズは6cm!
こんなに長いコルクを使っている造り手は他にいません。

更にアンジェロさんはマーケティングにも改革を起こしました。
自分自身でアメリカとヨーロッパ各地を回り、
ガイアのワインをセールスしていきます。

ワインのラインナップはブルゴーニュに倣い、単一畑のシリーズをリリースします。
この単一畑シリーズのバルバレスコが世界中で話題を呼び、最高の評価を受けます。
それまで、品質に関して評価されることがほとんど無かったイタリアワインの中で
世界中で評価されたのは、まさに画期的なことでした。

しかし、アンジェロさんはこれを良く思いません。
あくまでガイアのフラッグシップは「バルバレスコ」。
そこに、畑の名前が付けられたものではありません。
世界中で単一畑シリーズが高く評価されるようになると、それまでの「バルバレスコ」が
「レギュラーの」「普通の」と形容されるようになってしまいました。

そこで彼は、最高評価を受けていた単一畑シリーズから「バルバレスコ」の名前を取ってしまいます。
内容は同じものでも、格付けが変わってしまえば、一般市場からは理解されず、
また一から知名度の上げ直しです。
さらに、「バルバレスコ」と同じ最高格付けである、「バローロ」も格下げしてしまいました。
しかし、世界でのガイアの認知度はそんなことに影響されないほどに確立されたもので、
格下げしたワインたちも、その世界的な評価を落とすことなく現在に至っています。

これにより、ガイアの最高格付けDOCGは、「バルバレスコ」は唯一のものになり、その地位を取り戻しました。


このように、イタリアワイン全体に変革を起こし続けたアンジェロさんに倣う造り手は多く、
自分の子供に醸造と経営の勉強をさせることが、ブームになったほどです。

私も、彼がトスカーナのボルゲリに起こしたカンティーナの、日本初リリースへ向けての試飲会で
アンジェロさんにお会いすることが出来ましたが、その印象は説明した様なやり手のイメージではなく、

「ワインが好きでたまらない、農家のおじさん」

でした。

しかし、握手させていただいたその手は、とても厚く、硬いもの。
そして、自分のワインについて熱く語り続けるその姿勢は、 ブドウの栽培、醸造、マーケティングまで一人で取り仕切る、彼の努力が伝わってくるようでした。

イタリアワインの実力を世界に知らしめた人物。
アンジェロ･ガイアさんのワインは、イタリアワインを語る上で決してはずすことのできないものです。