カーゼ・バッセ Case Basse

「世界で一番美味しいワインは？」
と、きかれて私はこう答えます。

「ブルネッロ･ディ･モンタルチーノ カーゼ バッセ」

前職の職業柄、様々な国の様々なワインをテイスティングさせて頂きましたが、
私はこのワイン以上に華やかな香りを持ち、沢山の味わいを持つワインに
出会ったことがありません。

ブルネッロは100年の熟成に耐え得るワインだと言われています。
もちろん作り方によってという前提が付くのですが、
沢山の素晴らしいブルネッロの造り手の中でもカーゼ バッセという畑を持つ
ジャンフランコ･ソルデラは一線を隔しています。

初めてこのワインを飲んだとき、その味わいから、

「どれだけの努力をしているのだろう。」

「これだけの味わいを生むには、完璧な管理を最新の設備で、
　細心の注意の中で進めているはず。」

と、ソルデラさんに完璧主義者のイメージを持ちました。
しかし、このイメージは大きく覆されます。
まず特徴的なのは、彼の人柄。

「偏屈じいさん」

というのが一般的な意見のようです。
ソルデラさんはトスカーナの遥か北のミラノで保険会社を経営しています。
「他の事業で成功された方が、それまでに持っていたワインへのこだわりを
　趣味として始め、やがて本業へと移り、素晴らしいワインを生む。」
というのはよくある話です。

しかし、ソルデラさんはミラノとモンタルチーノ（トスカーナの中南部の村）を
何回も行き来し、ワイン造りに費やす時間は年に7ヶ月を越えるそうです。
どちらの事業も両立させているどころか、世界でトップクラスの結果を生んでいるんです！

ワイン造りにも彼の偏屈ぶりは発揮されています。
まずは畑。ソルデラさんは、「カーゼ バッセ」と「インティスティエーティ」
という二つの畑を持っています。通常の考え方であれば素晴らしいワインを生む畑は
整備が行き届き、ワインに不要ならば草の一本も生えていないのが常です。
しかし、彼の畑には雑草が覆い茂ります。

「ワイン造りは自然と共にある」

という考えの下に、畑の周りにはバラが植えられ、森が残されており、そこには
鳥の巣箱が沢山設置してあります。不要な雑草を虫が食べ、害虫は鳥が駆除する。
生態系を整えることに力を注ぎ、自然な味わいのワインを造り出します。

葡萄の収穫にも自然さを取り入れ、とても小さな畑に地元の人が9人集まり、
細心の注意を払って一粒一粒手摘みしていきます。

収穫された葡萄は潰して醗酵させるのですが、普通であれば、葡萄にあわせた温度で
温度管理が出来るステンレス製のタンクを用いるのが常。ソルデラさんは、
予想通り（？）に突飛な手段をとります。
まず醗酵は木製槽。温度管理も行いません。

「ブルネッロというこの土地は遠い昔からワインを造っています。
そして今尚、素晴らしい生産地として生き残っているのです。
つまり、この土地にはワイン造りに適した気候も備わっているはず！」

という考えで、全てを自然に任せます。どれだけの時間が掛かるのかさえまちまちなんです。
しかし、醗酵の度合いでワインの出来不出来は大きく左右されます。
ここを見極めるのが素晴らしい造り手です。このソルデラさんどうやると思いますか？



正解は、「鼻」。
何度も何度もテイスティングし、彼の「ワイン造りの勘」だけで
全てを決めてしまうのです。しかし、その勘で造られたワインは、
最新の技術と情報で造られた様々なワインを相手にもしない
実力を持っています。

小さな畑で、よい葡萄だけを選りすぐって造られるワインは年間に1万6千本程度。
フランスの一級シャトーでさえ10万本単位で生産される中でこの数字です。
完全に供給が追いついていない状況ですが、インポーターさんの努力のおかげで、
日本にも少量ながら毎年入荷されます。
偏屈じいさんが相手です。どんな条件が突きつけられたんでしょうか(;´▽`A

世界最高の、自然な味わいと香り。これは彼にしか造りえない物です。