サン・グイド San Guido

ピエモンテに本拠地を置いていたマリオ･インチーザ･デッラ･ロッケッタ公爵は、
競走馬の生産で成功したゲラルデスカ家との婚姻で、
トスカーナ州のボルゲリという田舎の土地を手に入れました。

今でこそワインの銘醸地として世界から注目されるようになりましたが、
マリオさんの「サッシカイア」が生まれるまでは、ただの田舎町でした。

そしてこのとき彼が手にしたボルゲリの土地は2500ha！
ボルゲリのほとんどは彼の土地です。
しかし、ブドウ畑にされているのは600ha程で、

「本業は競走馬の生産である。」

と、きっぱりと言い放ちます。
しかし、その言葉は本物で、フランスの凱旋門賞を２度制し、
無敗のまま引退したサラブレッド「リボー」を出したことでも有名なんです。

そして、「本業ではない」ワイン造りにおいても世界でトップクラスの実力です。
彼のおかげで、今のイタリアワインがあるといっても過言ではないでしょう。

マリオさんは、大のワイン好き。中でもフランス、ボルドーのものが好みで、
まだ輸入が盛んでなかった時代からボルドーからワインを取り寄せ、
屋敷の地下の大きなセラーに蓄えていました。

しかし、第二次世界大戦によってフランスからワインの供給が途絶え、
大好きなボルドーワインは日に日に減っていきます。

そこでマリオさんは、知り合いがボルドーと同じ、カベルネを育てていることを聞きつけ、
試飲させてもらいます。その味わいにボルドーと通じるものを感じた彼は、自分の土地に
ワイン畑を造る決心をしました。

確かな鼻と舌を持っているとはいえ、ワイン造りは素人。

「ボルドーに近い味わいにしたい。」

と競馬仲間であった、シャトー･ラフィットのロスチャイルド男爵に相談します。
これを快く思ったロスチャイルド男爵は、マリオさんに自分の畑に使用していた
苗木をわけてあげます。

畑に植えられたラフィットの苗木は、1948年に初めて収穫され、
樽熟成が完了したばかりのワインが、マリオさんの知人に振舞われました。

しかしその評価は、

「口が焼けるようだ。」
「もう結構。」

と散々なもの。
丁度、第二次世界大戦も終戦し、ボルドーからの輸入が再び始まると、
彼のワイン造りへの情熱は冷めていきました。

それから、10年ほど経った60年代の始め。
自分の造ったワインを、ふっと思い出した彼は、セラーで眠っていたワインを取り出します。
開けてみると、かつての焼けるようなタンニンは落ち着き、
素晴らしい味わいに変化していました。

そしてこのワインが、すでにワイン造りで成功していた、
いとこのピエロ･アンティノーリさんに認められ、販売を勧められます。

マリオさんは65年から畑を広げ、見よう見まねでワイン造りを再開しました
このような背景を持ちながら、68年にサッシカイアが初めてリリースされました。
そしてこの年から、ブドウの栽培から、醸造、販売に至るまでを
アンティノーリが取り仕切ることになります。

こうしてマリオさんのワインはモダンな造りのものへと変化を遂げました。

そうしてすぐの72年ヴィンテージの「サッシカイア」が
世界各地の評価機関で最高の評価を獲得します。
それまで、品質を認められることの無かったイタリアワインが、
初めて世界に受け入れられた瞬間でした。

この、格付けに縛られること無く良質なワインを生産するスタイルが、
トスカーナ州を中心にイタリア中に広まります。
これらのワインは「スーパータスカン」と呼ばれ、量から質へと変化する
イタリアワインを代表するものとして、世界で認められるようになりました。

そして紛れも無く、このサッシカイアがイタリアを代表するワインです。